相続の実務(遺産分割の対象財産-預貯金-)
Q.父が亡くなりました。母は既に他界しているため、相続人は私(長女)と兄(長男)のみであり、父の遺産は兄と同居していた自宅と預貯金があります。
自宅については、兄が取得を希望しており、その希望は受け入れるつもりですが、兄は、預貯金は金銭債権なので法律上当然に半分に分けることになるとも主張しています。
兄の主張通り、預貯金は、兄と私の半分ずつで分けることになるのでしょうか。
平成28年決定以前の考え方
後述の最高裁判所が平成28年に行った決定以前は、金銭債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという過去の最高裁判所の判決をふまえ、預貯金についても、遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されると考えられていました。
例外として、相続人の間で、預貯金も遺産分割の対象とするという合意があれば、遺産分割の対象とされてきましたが、質問のケースでは、長男は預金を遺産分割の対象とすることに合意しないと考えられるため、預貯金は、長男と長女が、当然に半分ずつ分けることになるという結論になってしまいます。
もっとも、預貯金を遺産分割の対象に含めないと、質問のケースのように、相続人間に不公平が生じる場合があり、また預貯金は現金(遺産分割の対象となります)と同様に、遺産分割を行う際の調整的な要素として役立つため、預貯金を遺産分割の対象に含めない場合に生ずる問題点が指摘されているところでした。
平成28年決定以後の考え方
上記の問題点を受けて、最高裁判所は、平成28年12月19日決定で、預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象になると判示し、従前の判例を変更しました。
そのため、質問のケースでは、預金を半分ずつ分ける必要はなく、兄が取得する予定の自宅の価値にもよりますが、預金は長男よりも長女が多く取得したり、長女が全部取得するといった解決が可能になります。
弁護士にご相談を
今回のコラムのように、以前は常識とされていた考え方が、その問題点や時代の変化等に応じて、最高裁判所が判例を変更し、新たな考え方が常識となっていく場合がございます。
そのため、相続において疑問に思われる点がございましたら、疑問を残したまま、他の相続人の主張をそのまま受け入れるのではなく、専門的な知識を有する弁護士にご相談いただければと思います。
(文責・横浜みなとみらい法律事務所)