相続の実務(遺産から生じた賃料債権の帰属)

Q.父が亡くなりました。相続人は、子供らである私と兄と弟の3人です。
父の遺産には、賃貸しているA(賃料収入月12万円)・B(賃料収入月30万円)・C(賃料収入月9万円)の各不動産がありました。私達子供らは、各不動産から生じる賃料について銀行口座(以下「本件口座」といいます。)を開設し、そこに賃借人から賃料を振り込んでもらっていました。父が亡くなった後、1年後に遺産分割審判が確定し、各不動産の帰属は、私がA、兄がB、弟がCとなりました。
この場合、本件口座の残金612万円(ABC各不動産の1年分の賃料)はどのように振り分けることになるのでしょうか。

本件の問題点

本件の問題点は、相続人が数人ある場合に、相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じた果実や収益(本件の賃料)は、誰に帰属するのか、というものです。

1 各不動産から生じた賃料は、相続開始の時にさかのぼって、各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものと考えた場合

質問者は、12万円×12ヶ月=144万円
兄は、30万円×12ヶ月=360万円
弟は、9万円×12ヶ月=108万円
のように分配することとなります。

2 遺産分割審判が確定する日までは法定相続分に従って、各相続人に賃料債権は帰属し、遺産分割審判確定の日の翌日から各不動産を取得した各相続人に帰属するものと考えた場合

各相続人は、法定相続分に従い、612万円を、各3分の1ずつ、分けることになります。
そのため、それぞれ、612万円×1/3=204万円ずつを受け取ることになります。

判例の考え方

本件のような遺産から生じた果実及び収益について判断を示した最一小判平成17年9月8日(民集59巻7号1931頁、判時1913号62頁)では、以下のような判断を示しました。

  1. 遺産は、相続人が複数あるときは、遺産分割までの間は、共同相続人の共有に属する。
  2. 遺産である賃貸不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
  3. 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人が分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないというべき。

遺産から生ずる果実は、民法909条本文により、相続開始の時にさかのぼって果実を生む元物たる財産を取得した相続人が取得するとする立場(上記1の考え方)もありますが、この立場では遺産分割によって不動産を取得した者が果実を全て取得することになり、それまでの共有状態からみて不公平が生じてしまうという観点から判例は2の考え方を採用したと思われます。

もっとも、2の立場では、本件口座の残金は、遺産分割の対象とならないこととなりますが、実務においては、柔軟に相続財産を分配するために、相続人全員が遺産分割の対象に含めることの合意があれば、遺産分割の対象とすることもできます。

回答

  1. 原則は、法定相続分に従い、質問者、兄、弟で、3分の1の204万円ずつ、振り分けることになります。
  2. 例外的に、質問者、兄、弟の全員の同意により、相続財産と一括して遺産分割の対象として、協議により振り分けることができます。

弁護士にご相談を

今回のコラムでは、遺産分割前に遺産に属する財産から生じた果実及び収益が、そもそも遺産に属するものとして、遺産分割の対象となるのかについて、問題になりました。

関連した問題として、保険金・死亡退職金・遺族給付・社債・ゴルフ会員権など、相続財産に含まれ、遺産分割の対象となるのかが、問題になるものは多いです。

遺産分割をするうえでは、その遺産分割の対象となる財産を把握することが重要になりますので、専門的な知識を有する弁護士にご相談いただければと思います。

(文責・横浜みなとみらい法律事務所)