相続の豆知識(遺産分割)

Q.父が亡くなり、今度、姉妹の間で、遺産分割のための話し合いがあります。
遺産の分け方や、遺産分割がどうやって進んでいくかについて、教えてください。

遺産分割とは

遺産分割とは、相続した財産をどのように分けるかについて、複数の相続人の間で決めることです。
そもそも遺言書がない場合や、遺言書があっても、遺言書の指示が明確でない場合や遺言書の指示とは違う分け方をする場合に必要になります。

Point

遺産分割は、複数の相続人の共有に属する相続財産を、各相続人に帰属させる総合的で包括的な手続きです。そのため、相続人全員について、権利関係を合一に確定する必要があります。また、相続人の一部を除外して行われた遺産分割は、その相続人の手続きに参加する機会を奪うものになってしまいます。
したがって、相続人の一部を除外して行われた遺産分割は、協議・調停・審判ともに、無効とされてしまう可能性があります。

共同相続人の中に未成年者がいる場合には、その親権者が未成年者に代わって遺産分割手続に参加するのが原則です。
しかし、相続に関しては、親権者自身も共同相続人だったり、親権者に複数の未成年者がいたりして、そうした利害関係により、親権者が代理人になれない場合があります。そのような場合には、家庭裁判所に特別代理人の選任の申立てをして、選任された特別代理人が遺産分割手続に参加することになります。

遺産分割の3つの手続き

遺産分割は、次の3つの手続きによって進められます。

遺産分割協議

遺産の相続人による話し合いで決める方法です。
誰が・何を・どのくらい相続するのかを話し合います。
分割する割合については、法定相続分が参考になりますが、相続人全員の合意を得られれば、自由に決めることが可能です。
話し合いの証拠を残すため、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産を処理する際に、各外部機関(金融機関、法務局、税務署等)へ提出する書類にもなります。

遺産分割調停

遺産分割協議が整わないとき、または協議をすることができないときは、裁判所の手続きを利用して、遺産分割の紛争を解決することになります。
遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員が間に入って、相続の配分を決める方法です。家庭裁判所の調停委員が各相続人から事情や希望などを聞き、各人の状況を踏まえながら、合意に向けた話し合いを進めます。
遺産分割調停には、調停前置主義の適用はなく、最初から審判を申し立てることもできますが、実際には、調停が申し立てられることが多く、また、調停を経ずに審判を申し立てた場合であっても、実務上は、職権で調停に付されることが多いようです。

遺産分割審判

遺産分割審判は、裁判による遺産分割の手続きです。
遺産分割調停が不成立で終了した場合には、調停の申立ての時に、遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされ、自動的に審判に移ります。この場合、改めて、審判申立書を提出する必要はありません。
遺産分割調停の管轄は相手方の住所地であり、他方、遺産分割審判の管轄は相続開始地ですので、調停を行っていた家庭裁判所には審判の管轄がないことが起こりえますが、実務上は、調停を行ってきた家庭裁判所で審判を行っていることが多いと思われます。

Point

遺産分割は、相続開始後であればいつでも行うことができ、法的な期間制限はありません。遺産分割協議が整わないときや協議をすることができないときは、遺産分割調停手続や審判手続によって分割することになりますが、調停手続や審判手続についても期間的な制約はありません。
しかし、長年放置していると数次相続が発生し、共同相続人の数が膨大になる可能性があるので、よくありません。また、相続開始から10か月以内が相続税の申告・納付の期限となっており、これは、遺産分割の進み具合とは無関係です。
遺産分割がまとまらない場合には、早めに、弁護士にご相談されることをお勧めします。

遺産分割の4つの分割方法

遺産分割の方法には、大きく、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割という4つの分け方があります。

現物分割

現物分割は、財産をそのままの形で分割する方法です。
不公平が生じやすい方法ですが、財産を処分することなく、相続できます。

代償分割

代償分割は、一部の相続人に遺産を相続させ、他の相続人に対して代償金を支払わせる方法です。
不公平を現金で解消する相続方法といえるでしょう。
例えば、一人が土地や家屋などの財産の大半を相続して、他の相続人に対して、差額分を現金で支払います。

換価分割

換価分割とは、財産を売却し、現金化して分ける方法です。
現物の消失や費用の発生がありますが、公平な相続が可能になります。

共有分割

特定の遺産を共同相続人の共有にする共有分割という方法もあります。
ただ、共有分割は、紛争の先送りにしかならない場合が多いため、お勧めしないことが多いです。

Point

遺産分割は、遺産のすべてを一回的に分割するのが本来あるべき姿といえますが、例えば、相続税の支払いのために、遺産の一部を売却して代金を分割するなど、先に一部分だけ遺産を分割する必要がある場合もあります。
従前より、遺産の一部についてだけ分割協議を成立させること(一部分割)も可能であると解されてきましたが、今般の民法改正により、そのことが明文化されました(民法第907条)。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください

遺産分割を進めていると、相続人たちの思惑が露骨にぶつかり合い、互いに相手を出し抜こうとするような関係になってしまうことも多く見られます。

  • 自分に損のないように、遺産分割を進めたい。
  • 兄妹たちと直接、遺産分割の話をしたくない。
  • 適切な遺産分割の方法について、相談したい。
  • 一部の相続人を除外して、遺産分割の協議を進めてしまった。
  • 遺産分割協議の対象とした財産の中に遺産ではない財産があったことがわかった。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください。

(記事監修・弁護士伊藤康典)

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所代表弁護士。
東京大学法学部卒業。平成16年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長(2020年現在、弁護士6名)。

個人事業主、中小企業、上場企業の顧問業務のほか、交通事故、相続(遺言、遺産分割、遺留分減殺)や成年後見、建物明渡し等、個人の方からのご依頼にも注力しています。依頼者に待ったをかけるのではなく、依頼者の背中を押す弁護士でありたいと思っています。